「最初は簡単だったのに」という、あの違和感から
tkinterを触り始めた頃は、
不思議なほど素直に動いてくれたはずです。
ボタンを置いて、
ラベルを更新して、
ちょっとした処理を書くだけで、
「ちゃんとアプリっぽいもの」ができあがる。
変数も少なく、self.xxx が何を指しているのかも、頭の中で自然に追えていた。
ところが――
機能を少しずつ足していくうちに、
ある瞬間から、急にこう感じ始めます。
- 何がどこで変わっているのかわからない
- self が増えすぎて、触るのが怖い
- 動くけれど、もう理解できていない
それでもエラーが出るわけではありません。
アプリは「一応」動いている。
だから余計に厄介です。
「自分の書き方が悪いのかな」
「tkinterって、やっぱり難しいのかな」
そう思い始めたなら、
あなたは間違った方向に進んでいるのではありません。
むしろ逆です。
それは、
tkinterが難しくなったのではなく、
あなたが“次の段階”に足を踏み入れたサインです。
この回では、
- なぜ状態が増えると、急に考えられなくなるのか
- なぜ self が増えるほど、全体が見えなくなるのか
- そしてそれは、tkinter特有の問題なのか
という点を、
コードの書き方ではなく、構造と考え方の視点から整理していきます。
少し長くなりますが、
そのぶん「なぜ混乱が起きていたのか」を
きちんと腑に落とすことを目指します。
もし今、
「動いてはいるけれど、もう説明できない」
そんな感覚を抱えているなら――
この記事は、きっと役に立つはずです。
第1章|「変数が増えた」ように見えて、本当に増えているもの
変数が増えただけ、では済まなくなる瞬間
tkinterでアプリを作っていると、
機能追加のたびに変数が増えていきます。
self.count
self.name
self.is_editing
self.selected_item
最初のうちは、これでも問題ありません。
どれも「今どうなっているか」を表す、
わかりやすい値だからです。
ところが、ある程度規模が大きくなると、
同じように変数を追加しているはずなのに、
急に全体が見えなくなってくる。
このとき多くの人は、こう考えます。
「変数が増えすぎたせいだ」
でも、
本当に増えているのは、単なる変数でしょうか。
GUIにおける変数は「状態」を表している
tkinterに限らず、
GUIアプリで扱う変数の多くは、
数値や文字列そのものではありません。
それらはすべて、
「アプリが今、どんな状況にあるか」
を表しています。
たとえば、
- 編集中かどうか
- 何かが選択されているか
- 入力が完了しているか
- 保存済みか、未保存か
これらはすべて、
**画面の裏側で保持されている“状態”**です。
つまり、
変数が増えているように見えて、
実際には「覚えておくべき状況」が増えている
ということになります。
「状態」が増えると、頭が追いつかなくなる理由
問題は、
状態そのものが悪いわけではありません。
問題になるのは、
状態が増えたとき、それらの関係が見えなくなることです。
- この状態は、どこで変わるのか
- どの処理が、この状態に依存しているのか
- 今この画面は、どの状態にあるのか
これらを同時に頭の中で追い続けるのは、かなりの負荷になります。
特に tkinter は、
- 処理が上から順に流れない
- ボタンやイベントで、突然処理が呼ばれる
という性質を持っています。
そのため、
状態が増えるほど、
「今、どこから来て、どこへ行こうとしているのか」
が見えなくなってしまうのです。
混乱の正体は「変数の数」ではない
ここで、いったん整理しましょう。
混乱の原因は、
- 変数が多いこと
- self が多いこと
そのものではありません。
本当の原因は、
状態が、文脈ごとに整理されていないこと
です。
すべての状態が
同じ場所・同じ視点で扱われていると、
アプリ全体の「今」が曖昧になります。
これは tkinter 特有の問題ではなく、
イベント駆動型アプリすべてに共通する壁です。
この時点で起きていること
ここまで来ているあなたは、
- tkinterが難しくなった
のではなく、 - 「状態を設計する段階」に入った
だけです。
次の章では、
なぜ self が増えるほど考えづらくなるのか、
その理由をもう一段、深く掘り下げていきます。
第2章|なぜ self が増えると、急に考えられなくなるのか
self が悪者に見え始めたとき、実は何が起きているか
アプリが大きくなってくると、
多くの人が一度はこう思います。
「self が多すぎて、もう追えない」
そして次に、self そのものが悪いような気がしてくる。
でも、先に結論を言ってしまうと――
self は何も悪くありません。
問題は、
**self に“何を背負わせているか”**です。
self は「自分の状態を覚えているだけ」
まず前提を整理します。
self がやっていることは、実はとても単純です。
- クラスの中で
- 「今の自分がどういう状態か」を
- 覚えておく
それだけです。
self.count
self.is_editing
self.selected_item
これらはすべて、
「このオブジェクトはいま、こういう状態です」
というメモに過ぎません。
つまり、
self が増えるということは、
「一人の登場人物が、たくさんのことを覚え始めた」
という状態でもあります。
人は、同時にたくさんの文脈を扱えない
人は、
- 今どの画面か
- 何をしようとしているか
- どのボタンが押されたか
といった文脈をもとに考えます。
ところが self が増えすぎると、
- この処理は、どの状態を前提にしている?
- その状態は、いつ変わった?
- 今の self は、どの組み合わせ?
といった問いを、
同時に頭の中で解かなければならなくなる。
これが一気にしんどくなります。
コードが読めないのではなく、
状況が想像できなくなる。
これが、
「急に考えられなくなった」
と感じる正体です。
self が増えた瞬間に起きる“視点の崩れ”
最初の頃は、
self の中身を 一覧で思い浮かべられた はずです。
- 今はこれ
- 次はこれ
というように、
視点が一つにまとまっていた。
ところが状態が増えると、
- ある処理は A の状態を前提にしていて
- 別の処理は B の状態を前提にしている
というように、
処理ごとに視点が分裂し始めます。
その結果、
「今、このクラスは何を代表しているのか」
が、わからなくなる。
self が増えて苦しくなるのは、
コード量の問題ではなく、視点が散らばったサインです。
「全部 self にある」こと自体が、警告灯
ここで一つ、
大事な見分け方があります。
もし、
- 画面に関する状態
- 入力データの状態
- 処理の途中経過
- 一時的なフラグ
これらが すべて同じ self に詰め込まれているなら、
それはこう言い換えられます。
一人に、複数の役割を同時にやらせている
人でも、
それはしんどくなります。
tkinterでも同じです。
「整理できていない」のではなく、「分ける段階に来ただけ」
ここまで来ている人は、
決して失敗していません。
むしろ、
- 小さなスクリプト
- 単発の処理
を卒業して、
「構造を意識するアプリ」
に入っただけです。
self が増えて苦しくなるのは、
成長の証拠でもあります。
次の章では、
この混乱がなぜ tkinter で特に顕在化しやすいのか、
イベント駆動という観点から整理していきます。
第3章|tkinterは「イベント駆動」である、という前提
処理が上から流れない世界で、何が起きているのか
これまでの章で、
- 変数が増えたわけではなかった
- self が悪いわけでもなかった
というところまで整理してきました。
では、
なぜこの混乱が tkinter で特に起きやすいのか。
その答えは、
tkinterが採用している イベント駆動 という仕組みにあります。
tkinterは「待つ」プログラムである
通常のスクリプトは、
- 上から順に処理が流れ
- 最後まで実行されたら終わる
という世界にいます。
一方、tkinterは違います。
- 起動したら
- そこで「待ち」に入る
- 何か起きたら、その都度呼ばれる
つまり tkinter は、
「次に何が起きるかわからない世界」
で動いています。
処理の順番を、人間が完全に支配していない
ボタンが押されたとき、
どの関数が呼ばれるかは書いています。
でも、
- どのボタンが
- いつ
- どの状態で
押されるかは、
人間ではなくユーザーが決めます。
そのため、プログラム側は常にこう問われます。
「今の状態で、このイベントが来たらどうする?」
これに答えるために、
状態を持たざるを得ない。
でも同時に、
状態が増えすぎると、
その問いに答えられなくなっていきます。
「状態を持たないと壊れる」「持ちすぎると壊れる」
ここで、tkinter特有のジレンマが現れます。
- 状態を持たない
→ 何が起きているか分からず壊れる - 状態を持ちすぎる
→ 全体像が見えず壊れる
どちらも、
同じ“壊れる”でも原因が違う。
そして多くの人は、
この中間点を探してさまよいます。
イベントは「今ここ」しか教えてくれない
イベントハンドラが知っているのは、
- 今、何が起きたか
だけです。
- どういう経緯でここに来たか
- これから何が起きる予定か
は、イベント自身は知りません。
だからこそ、
過去と文脈を、状態として保持する必要がある
しかし、
その状態が整理されていないと、
- イベントごとに前提が違う
- 同じ関数でも意味が変わる
という状況が生まれます。
これが、
「同じ処理なのに、時々挙動が違う」
という、
最もデバッグしづらい問題を生みます。
tkinterが難しいのではなく、非線形な世界に入っただけ
ここまでをまとめると、
- tkinterは線形ではない
- イベント駆動は文脈を分断する
- 状態が、その断片をつなぐ
という構造が見えてきます。
つまり、
tkinterが急に難しくなったのではない
あなたが、非線形な設計の世界に入っただけ
ということです。
これは Web アプリでも、
ゲームでも、
同じ壁が現れます。
次の問題は「状態をどこに置くか」になる
イベント駆動という前提を受け入れると、
次に自然と浮かぶ疑問があります。
- 状態は、どこに置くべきか
- 何と何を、分けて考えるべきか
次の章では、
「状態」と「振る舞い」を混ぜると何が起きるか
をテーマに、
混乱が加速するポイントを整理していきます。
第4章|「状態」と「振る舞い」を混ぜると、何が起きるか
コードは動いているのに、説明できなくなる瞬間
ここまでで、
- 状態が増えると認知負荷が跳ね上がる
- tkinterはイベント駆動で、文脈が分断されやすい
という前提が見えてきました。
では、
なぜ混乱が一気に加速する瞬間があるのか。
その正体が、
「状態」と「振る舞い」を無意識に混ぜ始めたときです。
「状態」と「振る舞い」は別のもの
まず、言葉を整理します。
- 状態
→ 今どうなっているか - 振る舞い
→ 何が起きるか、何をするか
たとえば、
- 編集中かどうか → 状態
- 保存処理を実行する → 振る舞い
これ自体は、
とても当たり前の話です。
でも実際のコードでは、
この二つが簡単に混ざります。
よくある混在パターン
たとえば、こんな流れです。
- ボタンが押された
- 状態を確認する
- 状態を変更する
- 処理を実行する
これを一つの関数で書くと、
「この関数は、
状態を見て、変えて、処理もする」
という何役も背負った存在になります。
最初は問題ありません。
でも機能が増えると、
- この関数は、どの状態を前提にしている?
- ここで状態を変えていい?
- 別のイベントから呼ばれたら?
という疑問が出始めます。
「今、どの状態なのか」が見えなくなる
状態と振る舞いが混ざると、
次のようなことが起きます。
- 状態が、処理の途中で変わる
- どこで変わったか分からない
- 関数の入り口と出口で意味が違う
結果として、
「今このアプリは、どんな状態なのか」
を、
コードから読み取れなくなります。
これが、
「動くけど理解できない」状態です。
イベント駆動では、この問題が表面化しやすい
イベント駆動では、
- 同じ処理が
- 違うイベントから
- 違う状態で
呼ばれます。
そこに、
- 状態の変更
- 処理の実行
が混ざっていると、
文脈が完全に絡まる。
この絡まりは、
if を増やしても、
コメントを増やしても、
解けません。
「混ぜてはいけない」というより、「意識しないと混ざる」
ここで大事なのは、
「混ぜるな危険」と言いたいわけではありません。
問題は、
混ざっていることに気づいていない
ことです。
意識せずに混ざると、
- どこで判断して
- どこで実行して
- どこで状態が変わるのか
が見えなくなります。
これが、
self が増えたときに一気に苦しくなる
決定的な原因です。
次に必要なのは「役割で分ける」という視点
ここまで来ると、
次に出てくる問いは自然です。
- 状態は、どこで持つべきか
- 振る舞いは、どこに置くべきか
次の章では、
クラスは「整理箱」ではない
という話を通して、
この混乱をどうほどいていくかを見ていきます。
第5章|クラスは「整理箱」ではない
変数をまとめても、混乱は減らない理由
ここまでで、
- 状態が増えると見えなくなる
- self が増えると考えられなくなる
- 状態と振る舞いを混ぜると絡まる
という流れを追ってきました。
そこで多くの人が、
次にこう考えます。
「じゃあ、クラスで整理すればいいのでは?」
この発想自体は、間違っていません。
ただし――
整理の仕方を間違えると、混乱は残ります。
「クラス=変数をまとめる箱」という誤解
よくある整理の仕方は、こうです。
- 関連しそうな変数を
- 一つのクラスにまとめる
一見、整ったように見えます。
でもこのやり方では、
- 何をするクラスなのか
- どこまで責任を持つのか
が曖昧なままです。
結果として、
箱の中が整理されただけで、
全体の構造は変わっていない
という状態になります。
クラスは「役割」と「責務」を表す境界線
ここで視点を変えます。
クラスは、
変数をまとめるための入れ物ではなく、
「この存在は、何を担当するのか」
を表すものです。
たとえば、
- 画面を描画する役割
- 状態を管理する役割
- 処理を実行する役割
これらは、
同じクラスでやる必要はありません。
むしろ、
分けた方が頭に入りやすくなります。
self が増えすぎるのは「役割が多すぎる」サイン
ここで、self の話に戻ります。
もし一つのクラスの self に、
- 画面の状態
- データの状態
- 処理の途中経過
がすべて詰め込まれていたら、
それはこう言い換えられます。
一人で、全部やろうとしている
人でも、
それは限界が来ます。
tkinterでも同じです。
self が増えすぎたときは、
「整理が足りない」のではなく、
「役割を分けるタイミングが来た」
という合図です。
クラスを分けると「考える視点」が戻ってくる
役割ごとにクラスを分けると、
何が起きるか。
- このクラスは、何を知っているか
- 何を知らなくていいか
が、はっきりします。
すると、
- 状態の置き場所
- 振る舞いの担当
が自然に決まってくる。
self を追いかけなくても、
役割を追えば読めるコードに戻ってきます。
完璧な設計を目指さなくていい
ここで一つ、
大事なことを言っておきます。
最初から、
- きれいに分ける
- 正解の構造にする
必要はありません。
むしろ、
- self が増えて苦しくなった
- クラスの責務が曖昧だと感じた
その時点で、
すでに設計者の視点に立っています。
次に見るべきは「壊れ始める瞬間」
役割の視点を持つと、
次に気づくポイントがあります。
- if が増え始めた
- 触るのが怖くなった
- 「これ、どこまで影響ある?」と考えた
次の章では、
こうした壊れ始める瞬間を
言語化していきます。
第6章|「壊れ始める瞬間」を言語化する
動いているのに、触るのが怖くなったら
ここまでで、
- 状態が増え
- self が増え
- 状態と振る舞いが混ざり
- クラスの役割が曖昧になる
という流れを見てきました。
では実際に、
どのタイミングで「壊れ始めた」と気づけるのか。
多くの場合、それはエラーではありません。
「壊れた」のではなく、「予測できなくなった」
本当に厄介なのは、
アプリが止まることではありません。
- エラーは出ない
- ちゃんと動く
- でも、なぜ動いているか説明できない
この状態になったとき、
すでに構造は悲鳴を上げています。
壊れたのではなく、
自分の頭の中にある“予測モデル”が壊れた
という状態です。
よくある「警告サイン」
ここで、
多くの人が経験しているはずのサインを挙げます。
- if / elif が増え始めた
- 引数が増えてきた
- 「とりあえずここでフラグを立てた」
- コメントで説明しないと分からない
- 「ここは触らないでください」という気持ち
これらはすべて、
構造が追いついていないサイン
です。
技術不足ではありません。
if が増えるのは「判断が分散した証拠」
特に if の増殖は、
とても分かりやすい兆候です。
if が増えるということは、
- 状態の組み合わせが増えている
- その判断を、一箇所で背負っている
ということ。
これは、
本来分かれているべき役割が、
まだ一緒になっている
という状態でもあります。
「触るのが怖い」は、設計者の感覚
この感覚、
実はとても大事です。
- ここを変えると、どこに影響する?
- 想定外の動きをしない?
こう思い始めたということは、
全体像を、無意識に把握している
ということでもあります。
逆に言えば、
初心者の頃は「怖さ」すら感じません。
怖さを感じるのは、
見えているからです。
コメントが増えたら、構造を疑う
コメントが悪いわけではありません。
でも、
- 処理の意味を
- 行ごとに説明しないと読めない
状態になっていたら、
それはコードではなく、
構造で語るべき段階に来ている
という合図です。
ここで立ち止まれる人は、もう一段上
この章で伝えたいのは、
「こうなったらダメ」という話ではありません。
- 気づけた
- 違和感を言葉にできた
その時点で、
あなたは、壊れる前に立ち止まれている
次の章では、
ここまでの混乱を踏まえて、
- どう整理し直すか
- 何から手を付ければいいか
を、今すぐ使える視点としてまとめます。
第7章|どう整理するか(今すぐできる第一歩)
完璧に直さなくていい。まず「見える」状態に戻す
ここまで読み進めてきたあなたは、
すでにこう感じているかもしれません。
- 理屈は分かった
- でも、全部作り直すのは大変そう
- 正解の設計なんて分からない
安心してください。
今すぐ完璧な構造にする必要はありません。
ここでのゴールは、
もう一度「考えられる状態」に戻ること
です。
第一歩は「状態を書き出す」こと
まずやってほしいのは、
コードを書くことではありません。
紙でも、メモでもいいので、
今のアプリが持っている状態を列挙します。
- 編集中 / 非編集
- 選択中の項目
- 入力済み / 未入力
- 保存済み / 未保存
ここでのポイントは、
- 変数名ではなく
- 意味で書く
ことです。
「どんな状態を覚えているアプリなのか」
を、言葉で把握します。
状態を「固まり」で眺めてみる
次に、それらの状態を眺めてみてください。
すると、
- 画面に関するもの
- データに関するもの
- 処理の途中経過
といった自然なまとまりが見えてきます。
この時点では、
- クラスを作る
- 設計を決める
必要はありません。
「あ、これは同じ文脈だな」
と感じられれば十分です。
「全部 self にある」状態から、一歩引いて見る
次に、
今のコードを少しだけ引いた目で見ます。
- この self は、何を代表している?
- どこまで知っている必要がある?
もし答えに詰まるなら、
それは設計が悪いのではなく、
役割が一つに固まりすぎている
というだけです。
いきなり分けなくていい。境界を意識するだけでいい
多くの人が、
ここで「分けなきゃ」と焦ります。
でも大丈夫です。
まずは、
- ここからここまでは画面の話
- ここから先は処理の話
と、心の中で線を引くだけでいい。
その線は、
あとからコードに反映すればいい。
self を「全部覚える存在」から降ろす
self を減らすことが目的ではありません。
目的は、
self が「何者か」を説明できる状態に戻す
ことです。
- このクラスは画面担当
- このクラスは状態担当
そう説明できるようになれば、
自然と self の中身は落ち着いてきます。
「整理できない」は、「気づきが追いついていない」だけ
最後に、
一番大事なことを。
ここまで来ている人は、
- センスがない
- 向いていない
のではありません。
むしろ、
気づきの速度に、コードが追いついていない
だけです。
一度立ち止まり、
構造を見直す視点を持てたなら、
それはもう「次の段階」に進んでいます。
この先へ
ここまでで、
- なぜ難しくなったのか
- どこで混乱が始まったのか
- どう立て直せばいいのか
が見えてきました。
次に進むなら、
- 役割をどう分けるか
- 状態をどこに置くか
- 画面遷移をどう考えるか
といった、構造を育てる話になります。
それは、
tkinterだけでなく、
Webアプリや他のGUIにもつながる視点です。
最終章|tkinterが難しいのではない。あなたが「設計の入り口」に立っただけ
混乱は、成長のサインだった
ここまで読み進めてきて、
もしあなたが少しでも
- 「あれは自分のせいじゃなかったのか」
- 「あの混乱には理由があったんだな」
と感じているなら、
この回はもう役割を果たしています。
tkinterが急に難しくなったわけではありません。
あなたの理解力が落ちたわけでもありません。
ただ――
扱うものが「処理」から「構造」に変わった
それだけです。
「動くコード」から「考えられる構造」へ
最初の頃は、
- 上から順に読めて
- そのまま理解できる
コードを書いていたはずです。
ところが、
- 状態が増え
- イベントが増え
- self が増え
ある日、
コードは動いているのに、頭が止まる。
それは失敗ではありません。
あなたの関心が、
「どう動かすか」から
「どう成り立っているか」へ
移った証拠です。
ここから先は、tkinterだけの話ではない
この回で扱った話は、
- 状態
- 振る舞い
- 役割
- イベント駆動
すべて、tkinter固有のものではありません。
Webアプリでも、
ゲームでも、
業務システムでも、
同じ壁が、必ず現れます。
そしてその壁は、
- 才能で越えるものではなく
- 経験で越えるものでもなく
「構造を言葉で捉えられるか」
で、越えていくものです。
今、あなたはどこにいるのか
もし今あなたが、
- self が多くて苦しい
- 構造を直したいけど、正解が分からない
- 触るのが少し怖い
そう感じているなら――
あなたはもう、
初心者ではありません。
そして同時に、
まだ迷っていていい段階でもあります。
迷えるということは、
全体を見ようとしているということだからです。
このシリーズの次へ
この第5回は、
- なぜ混乱が起きたのか
- どこで景色が変わったのか
を言語化する回でした。
次に進むなら、
- 役割をどう分けるか
- 状態をどこに置くか
- 画面遷移やモードをどう考えるか
といった、
「構造を育てる」話になります。
それはもう、
tkinterを使うための話ではありません。
アプリケーションを“考えて作る人”になる話です。
最後に
コードが書けなくなったように感じた日、
それは後退ではありません。
思考の段階が、一段上がった日です。
もしまた混乱したら、
この回に戻ってきてください。
そして、
「これは成長の途中だ」と
静かに思い出してください。


