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TEMPLE CODE CHRONICLE 覚醒編 11|ロッシュを探して

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ロッシュを探して

料理区画を出ると、澪は少しだけ足を止めた。

さっきから、頭の片隅に残っていることがある。

「ロッシュを探したい」

結菜が澪を見る。

「やっぱり、十年前のこと?」

「うん」

澪はウェアラブルを開き、施設内の案内表示を呼び出した。

グリーンオアシスの敷地内を移動しているロッシュの現在位置が、小さな表示として浮かび上がる。

「あ、いた」

「どこ?」

「こっち」

二人は表示を頼りに歩き始めた。

けれど、近づいてみると、ロッシュは高齢の利用者のそばにいた。

ゆっくりと歩くその人に合わせて速度を落とし、少し前を進みながら、ときどき振り返っている。

「……歩くの手伝ってる」

結菜が小さく言った。

澪はその場で足を止めた。

「終わるまで待とう」

二人は少し離れた場所から様子を見ていた。

やがて高齢者を目的の場所まで送り届けたロッシュが動き始める。

「今度こそ」

澪たちも歩き出した。

ところが。

「あれ?」

ロッシュは途中で進路を変えた。

表示を見ると、今度は別の区画へ向かっている。

二人が追いついたとき、ロッシュの前には小さな女の子がいた。

どうやら家族とはぐれたらしい。

ロッシュは女の子の目線に合わせるように姿勢を低くし、何かを話していた。

ほどなくして保護者らしい人物が駆け寄ってくる。

女の子がその人のもとへ走っていくのを見届けてから、ロッシュは再び動き始めた。

「……忙しいね」

結菜が笑った。

澪も少し笑う。

「私のロッシュは?」

結菜がすぐに澪を見た。

「私のって言った」

「個別呼称の話」

「はいはい」

ようやく二人の方へ向かってきたロッシュが、少し離れたところで停止した。

『青木澪さん。小暮結菜さん』

「ロッシュ」

澪は一歩前へ出た。

「聞きたいことがあるの」

『十年前の初回来訪記録についてですか』

澪が目を瞬く。

「分かるの?」

『施設管理記録への照会履歴を確認しました』

「そっか」

澪は少しだけ考えてから尋ねた。

「十年前の記録、残ってる?」

『現在、個体記録と中央記憶との同期を行っています』

「中央記憶への同期?」

『はい。過去の記録には個体側に保持されていない情報が含まれる場合があります。照合完了まで、約二十分を要します』

「二十分かあ」

結菜が少し残念そうな声を出した。

そのとき、ロッシュの表示灯がわずかに変化した。

『別件の対応要請を受信しました』

「また?」

『幼児が靴を片方紛失したとの報告があります』

澪と結菜は顔を見合わせた。

「これ、待ってる方が気になるね」

「何が?」

「記録。早く見たい」

澪もそう思っていた。

十年前。

あの水路。

白い髪の少女。

そして――セフィリア。

確かめたい。

できるなら、今すぐ。

けれど澪は、目の前のロッシュを見た。

さっきは高齢者の歩行を助けていた。

その次は、迷子の女の子。

今度は、誰かが落とした小さな靴。

「ロッシュ」

『はい』

「行ってきていいよ」

ロッシュが一瞬だけ停止した。

「急がないから」

『了解しました。中央記憶との同期完了後、読書天幕付近へ向かいます』

「うん」

ロッシュは向きを変え、通路の先へ走っていった。

その姿が見えなくなってから、結菜がぽつりと言った。

「ロッシュって、いろんな人に必要とされてるんだね」

澪は小さくうなずいた。

自分にとっては、十年前を知っている大切な存在だった。

けれどロッシュには、今日だけでもたくさんの人との時間がある。

誰かの歩幅に合わせる時間。

迷子を家族のところへ戻す時間。

落とした靴を探す時間。

それぞれの必要が、同じ場所を巡っている。

「読書天幕、行こっか」

「うん」

二人は並んで歩き始めた。

答えは、まだ少し先にある。

でも、それでいい。

その循環の中で、自分の順番を少し待つことも、この場所の一部なのかもしれなかった。




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